「お、サーンキュ。・・・んで、どうなのよ?修行の具合は」
「んー・・・、思いっ切りスランプ。果てしなくどん底。目も当てられないくらい泥沼」
「・・・なんだか凄まじいなあ」
「師匠の言ってる事、頭では理解できるんだけど身体が追いつかないっていうか、気持ちばっかり焦っちゃって空回りしてるっていうか」
「うん」
「何回やっても上手くいかなくて、しまいには『どうしてどうして?』ってパニックになっちゃって、治癒するどころか反対に破壊しちゃって」
「あはははは」
「もう・・・、笑い事じゃないのよ」
「ははは、ゴメンゴメン。なるほどね、でかい壁にぶち当たって、只今暗中模索中って訳ね」
「そう・・・。それで呆れた師匠に暇を出されちゃった・・・」
「えっ!?」
「二、三日休めって・・・」
「なーんだ、脅かすなよ・・・。それでこんなところでしょげてたのか」
呑気そうに空を見上げ、カカシ先生がニコニコと笑っている。
こんな風に笑われてしまうと、何だか一人で悩んでいるのが馬鹿みたいに思えてきた。
「笑わないでよ。真剣に悩んでるんだから」
「んー?別に馬鹿にして笑ってんじゃないよ。サクラは偉いなあって感心してんの」
「ホントにー?」
「サクラは昔から頑張り屋だったからな」
「だって一生懸命頑張らないと、サスケくんやナルトににどんどん置いてかれ・・・」
置いてかれる・・・
頑張らないと置いてかれる・・・ サスケくんに置いてかれる・・・
不意に、あの晩のサスケくんの背中が脳裏をよぎる。
私の頑張りが足りなくて、サスケくんは行ってしまった。もっともっと頑張っていたら、今頃私達はどうなっていただろう。
「・・・・・・」
「・・・どうした?」
「ねぇ、カカシ先生・・・。あの時、もっと私が頑張っていたら、サスケくんに置いてかれなかったのかな・・・」
「・・・・・・」
「えへへっ、最後の最後までサスケくんに『うざい』って言われて、私、なんか気後れしちゃったのかも・・・」
「ん・・・」
「でも、馬鹿みたいにみっともなくてもいいから・・・。もう嫌われまくってもいいから、もっともっと頑張るべきだったのかな、私・・・」
あの日から抱いている後悔の念が、大きく渦巻き私を呑み込む。
もしもあの時・・・なんて、いくら考えても答えなんて出やしない。
でも、もしも時間を巻き戻せるのなら、どんな手段を講じてまでも彼をこの地に引き止めたかった。
「んー、そうだなあ・・・。たとえサクラが、どんなに必死にサスケを引き止めたとしても・・・」
「・・・・・・」
「やっぱりアイツは、お前を置いてったと思うよ」
「そう・・・」
「別にサクラの事が嫌いだとか足手纏いだとかって言ってる訳じゃない。・・・むしろアイツはお前の事を大切に思っていた」
「じゃあ、どうして・・・」
「大切だからこそ、離れてったんだ。きっとお前を守りたかったんだろうな」
「・・・なにそれ。全然分かんない・・・」
「んー・・・、好きな女の子の前じゃ必要以上に格好つけたいって言うのかなあ・・・。ホラ、男ってさ、結構見栄っ張りな生き物だから・・・」
「そうなの?」
「あれはあれでサスケなりの愛情表現だったと思うよ。むしろお前に感謝してたんじゃないかな」
「そう・・・かな・・・」
「ああ、きっとそうだ」
慰めてくれているんだろうな・・・。
カカシ先生お得意の、ただの口から出任せかもしれない。
それでも何だか心が軽くなったような気がした。
ピリピリと張り詰めて尖っていたものが、穏やかに落ち着いていった。
「ふーん。面倒臭いのね、男の子って」
「そうそう、幾つになっても男は面倒で大変なの。特にあの年頃はね、いかに格好つけようかで常に頭がいっぱい」
「へえ・・・。カカシ先生もそうだったの?」
「オレ?」
「うん」
「そうだなあ・・・。サスケ以上に格好つけちゃって大変だったかなー。アハハハハ・・・」
昔を懐かしんでいるのか、それとも恥ずかしい過去を思い出しちゃったのか、カカシ先生がバツの悪そうな顔で笑っている。
「えぇ・・・!?」
「・・・・・・?」
この、いつだってやる気のなさそうな、のほほんと惚けたカカシ先生が。
どこへ行くにもイチャパラ本を手放さない、煩悩丸分かりのカカシ先生が。
昔はサスケくん以上に格好つけてたの?
・・・・・・どうやっても想像つかないんですけど・・・。
「なんだよ、マジマジと人の顔見ちゃって・・・」
「えっ、だってビシッとクールに決めてるカカシ先生なんて、いまいち想像つかなくて・・・」
「ハハハハ・・・そりゃどうも。ま、オレも多少は人間丸くなったからなー」
多少・・・?
この人を若干尖らせてみたって、絶対にサスケくんのようにはならないと思う。
精々いいとこナルトが格好つけてる程度じゃないの・・・?
とんでもない爆弾発言のせいで、猛烈にカカシ先生の過去に興味がわいてしまった。